「ノマド(nomad)」などと呼ばれる働き方(ワークスタイル)を以前にも増してよく耳にするようになりましたが、近年、従来では到底考えられなかった新しい働き方が定着し、今なお拡大を続けています。特に昨今のコロナ禍により、この潮流は一気に加速しました。

ノマドとは、「遊牧民」や「放浪者」というのが直訳ですが、インターネットなどの活用により、固定されたオフィスではなくあらゆる場所を転々としながら仕事をするワークスタイルを表しています。
こういった働き方が促進されたきっかけの一つに、昨今のビジネス環境における激しい変化や猛烈なスピード感があります。

一ヶ所に集うことなくチャットなどで手早く会議や打ち合わせを済ませたり、現地に赴くことなくリモートで作業を行ったりすることでそれに対応するのは、確かに理にかなった流れではあります。さらにその背景には、グローバル化による多様な価値観の流入と、テクノロジーの劇的な進歩が大きな要因として存在しています。

今後、国や地域、業種や業界などといった境界はより曖昧になり、科学やテクノロジーはさらに進歩していきます。それにより、既成概念の通じない世界へと大きく変貌していく中で、ビジネスのスピードはますます加速し、その流れに乗れない人間は容赦なく淘汰されていくでしょう。

そのような激動の世界において、日本でも個人主義への転換が叫ばれています。

世界の流れについていくために

従来、日本人は集団主義であると言われ、仲間との結束や輪を尊重してきました。生来の気質がそうであることに加え、教育によって協調や同調を叩き込まれるような社会環境において、強固に自分自身の意見を貫き通すというのは、なかなか難しい状況にあったのです。
一方、欧米諸国では個人主義の傾向が強く、一人一人が自らの責任のもとで判断することが求められます。特にアメリカはその傾向が強く、個人がそれぞれしっかりと自立している中で、数々のスーパースターが生まれ、あらゆる分野で世界をリードしてきました。
日本では優秀な起業家が育たない、などとよく言われますが、それは集団主義を偏重するあまり、少なからず個人の秘めたポテンシャルを潰してきてしまった側面があるのではないでしょうか。

しかしながら、今やそれも変わりつつあります。これまでの考え方では目まぐるしく変革する世界の流れについていけず、他国に大きく水をあけられてしまうことに、ようやく日本人も気が付いたからです。

日本人にとっては過酷な状況

集団主義から個人主義へ。今後も続く海外からの多様な価値観の流入とも相まって、日本でもこの流れは加速していくはずです。そしてそれは、単に個人が尊重されるという楽観的な意味にとどまらず、自立した強い個人だけが生き残れるという激しいサバイバルゲームが繰り広げられるということでもあります。特にビジネスの現場においてはそれが顕著になり、個人が熾烈な争いを強いられ、力の及ばない人間はどんどん淘汰されていくことになります。

ともすれば個性を押し殺し、集団の中で人に迷惑をかけずに同調することを求められてきた日本人にとって、これは極めて過酷な状況です。そのような中、企業においては、自立した強い個人を一人でも多く育てることが大きなミッションとなり、それが組織としての力を測るバロメーターにもなるのです。

繰り返しになりますが、今後はこれまでの常識が通用しない、新たな社会環境・ビジネス環境へと大きく変貌していきます。そしてその流れは止めることができないばかりか、日を追うごとに加速している状況です。この流れに乗れない人間は、淘汰という厳しい現実が待っているのみです。ただ一方で、価値観の多様化が進むということは、それだけビジネスチャンスも増えるということです。それこそ既成概念にとらわれない斬新なビジネスが次々と創出されることも期待できますし、現にその兆候は見えています。どんな状況においても悲観せず、そうやってポジティブに考えられるということも、自立した強い個人における大事な条件なのかもしれません。