時代を変える、斬新なアイデア。既成概念を覆す、画期的な商品。パラダイムシフトを巻き起こす、革新的なサービス。イノベーションという言葉からは、多くの方がそんな内容をイメージされるのではないでしょうか。

起業家や経営者の方のみならず、ビジネスに携わる身であれば、一度はそんなイノベーションを実現して、世間をあっと言わせてみたいと考えたことがあるかもしれません。ところが多くの方は、イノベーションは一部の天才が起こすものであり、自分にはそんな才能がないと諦めてしまっているのが現実です。次々と新しい商品や画期的なサービスを発案し、それを実現してしまう人や企業を目にして、一部の天才だけが成し得る領域と考え、他人事として片づけてしまうのです。果たして、イノベーションを起こすことができるのは、本当に天才だけなのでしょうか。

結論から言えば、そう考えてしまうのはあまりにもったいないことであり、自らのポテンシャルを否定し、殻に閉じこもってしまうようなものだと言わざるを得ません。イノベーションの実現は、情熱と努力次第で誰でも可能なことなのです。そして、それに気づき、情熱を持って努力を続けられる人を増やすことが、日本がグローバル社会で生き残り、世界で勝ち抜いていく道であると言っても、過言ではありません。

わずかな意識の転換でイノベーションは可能

とはいえ、決して天才の方を否定するわけではありません。ただ、天才だろうが凡才だろうが、わずかな意識の転換と、不断の努力によって、イノベーションの実現は可能であるということです。

日本人は、イノベーションを過度に大げさなものとしてとらえているきらいがあります。ゼロから新しいものを生み出すことだけがイノベーションではないのです。つまり、既存のものに対して少し視点を変えるだけでも、イノベーションは起こすことができるということです。新しい機能の追加や、無駄な機能の削減、別のものとの組み合わせなど、イノベーションが生まれるパターンはいくつかに限られており、それは非常にシンプルであると言われています。確かに、既に世の中にある便利な商品やサービスを考えてみても、そういったシンプルなパターンに過ぎないものが多いということに気がつくはずです。

「イノベーションを成功させるには、焦点を絞り、シンプルにしなければならない」というのは、経営学の父と呼ばれ、マネジメントの権威として有名な、あのピーター・ドラッカーの言葉です(『イノベーションと起業家精神』)。少しだけ意識を変えて、シンプルな思考で周りのものを見渡してみれば、意外とイノベーションの種が見つけられるかもしれません。ただドラッカーは、「イノベーションのためのアイデアは、1000のうち、1つか2つしか育たない」(『マネジメント・フロンティア』)とも言っています。たとえ天才であってもイノベーションの実現は決して容易ではなく、不断の努力と諦めない心が必要であるという教訓です。

誰もが次代のイノベーターになれる

ビジネスの世界に限らず、情熱や努力が才能を凌駕するといったことは、しばしば起こります。イノベーションの実現に際しても、大事なのは才能ではなく、わずかでも意識を変えて世の中にあるものや起こる事象に目を向けてみること、シンプルな思考で考えてみること、そして情熱と信念を持って努力を続けること、これに尽きるのです。そうすることで、イノベーションを生み出す力は徐々に磨かれ、実現に近づいていくはずです。

閉塞感にあふれる今の日本は、イノベーションが求められる機運が、これまでで最も高まっている状態かもしれません。既成概念がことごとく覆され、昨日の常識が今日は通用しないような激動の世の中において、従来では考えられなかったビジネスモデルが続々と誕生しています。そのような状況下では、情熱と努力次第で、誰もが次代のイノベーターになる可能性を秘めているのです。