ビジネスは不足へのあくなき挑戦
資金不足、人手不足、経験不足、時間不足、アイデア不足、在庫不足、顧客満足不足・・・。ビジネスにおいて直面する「〇〇不足」という状況には枚挙に暇がありませんが、ビジネスはこういったあらゆる不足へのあくなき挑戦です。常に何がしかの不足と戦っているのがビジネスである、と言い換えてもいいかもしれません。
特に中小零細企業の場合、多くは資金が潤沢にあるわけではありません。事業の継続危機に直結する資金不足が一番の強敵と言えるのではないでしょうか。その戦いに挑むため、四六時中資金繰りに奔走した結果、本業に打ち込む暇すらない(時間不足)、人を採用する余裕もない(人手不足)。その結果、お客様にも満足いただけるサービスを提供できず(顧客満足不足)、ますますジリ貧になっていく・・・。そんな、あらゆる不足が連鎖的に発生する状態、すなわち負のスパイラルに陥っている企業は、少なくないはず
「新しいことを始める」「気分転換を図る」「良いことだけに意識を向ける」・・・など。負のスパイラルから抜け出すためのアドバイスとして、よくこういったものを目にします。ただ、ビジネスにおける負のスパイラルは、そんなことで抜け出せるほど甘いものではないというのが、多くの方の正直な気持ちではないでしょうか。とはいえ、これらアドバイスの根底にある意図や目的に関しては、一つの参考にはなりそうです。そしてそれを参考にした上で、視点を変え、自らの努力の方向性や思考プロセスを見直してみることは、やってみる価値があるはずです。
自らを冷静に見つめ直す
何かが不足している際の対策には、新たにそれを調達するか、既に手元にあるもので何とかするか、全く別の手段を考えるか、それとも諦めるか・・・といった選択肢しかありません。まずは難しいことは考えずに、思考をシンプルに保った上で、落ち着いて複数の対策を同時並行で進めることです。新たに調達することばかりに躍起になって、それがなかなか叶わず、時間の経過に焦りと不安が募るばかりという状況では、ただただ疲弊してしまうだけです。とにかく落ち着くことが大事です。
こういった状況は、自社や自分自身について冷静に見つめ直すいい機会にもなります。その結果、不足していたものが、実は自前のリソースで事足りることが判明するというケースだって十分にあります。多くの場合、そううまくはいかないものですが、少なくとも自らの棚卸しにはなります。それだけで、次に同様の事態に陥るリスクが大幅に軽減されるものです。
人は生きている限り不足と戦い続ける
現代の日本社会において、人口減少は深刻化し、物質的には飽和が叫ばれる中、人々はあらゆるものを手にしています。それでも、科学やテクノロジーの進歩によって新たな商品やサービスが次々と生まれ、皆がそれを欲し、心理的にも物理的にも自らの生活における不足を補おうとします。
人は生きている限り、常に何がしかの不足に苛まれ、ないものをねだり続け、現状に満足することなど決してあり得ないのです。それによってビジネスが成り立ち、経済が活性化し、社会が円滑に回っていくわけですから、一概にそれを非難できるものではありません。
ただ、ビジネスにおいても人生においても、一度立ち止まって自らを冷静に見つめ直すことで、見えてくるものがあります。不足を補うことだけが、すべてではないということです。例えば、既に持っているものが意外と十分であることに、気づくことができるかもしれません。これを妥協と呼んでしまうと聞こえが悪いですが、妥協とは本来、問題を打開するための歩み寄りや譲り合いといった意味合いです。そして、「マネジメント」で有名なあのピーター・ドラッカーは、「妥協には二種類ある。一つは古い諺の『半切れのパンでも、ないよりはまし』であり、もう一つはソロモン王の裁きの『半分の赤ん坊は奪われるよりも悪い』である」(『経営者の条件』)と言っています。妥協には正しい妥協と間違った妥協があるという意味です。そして少なくとも、これは正しい妥協なのです。
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