自動車産業は輸出立国として世界的地位を誇ってきたわが国にとっては極めて重要な産業となってきたわけですが、世界的な需要動向の変化に加え、CASEと呼ばれるような自動車自体の大きな変化が市場に到来しようとしており自動車業界も大きな変化が訪れようとしています。この先10年の自動車業界を語るのと2050年といった先行きの業界の姿を語るのではだいぶその内容も変化する時期にあるというが正直なところではないでしょうか。

■市場は完全に成熟先進国から新興国へ
この表は世界の自動車販売債数の推移をFOURINが一つの棒グラフにまとめた推移ですが、先進国で普及が進んだ自動車は中国をはじめとした新興国等で大きな需要拡大がはかられたことから世界全体での需要は一貫して拡大してきましたが、残念ながら2019年は完全に減少し踊り場に差し掛かっていることがわかります。
そして2020年に関しては世界的な新型コロナウイルスの感染が続いていますから、生きるか死ぬかの瀬戸際に自動車販売が大きく伸びるわけもなく、恐らく大幅な減少を余儀なくされるものと見られています。
とくにマクロ的にみますと21世紀販売をリードしてきた中国市場がすでに飽和状態に到達していることも大きな転換点になっており、世界的に市場がシュリンクすることが十分に考えられる状況になってきています。

国内では自動車関連就業人口も減少

日本自動車工業会が発表している最新データによれば直近の自動車関連就業人口は国内の生産労働人口の8.2%、546万人を誇っていました最盛期の11%程度から見れば年々減少しており、とくに製造部門では88万人の雇用しか維持しておらず、国内メーカーがかなりの数を海外で製造している商品へとシフトしていることがわかります。
したがって今後も産業としては重要な位置を占めることになるのでしょうが、雇用という側面だけから考えますと自動車の国内生産はそれほどの雇用を維持できないことも見えてきています。また電気自動車の普及が進んだ場合これまでの内燃機関を搭載した車両のように部品点数が多く巨大なピラミッド産業を形成してきた自動車業界もその構造が大きく変化することが予想されはじめており、そもそもこの業界に従事できる人間の数が減少することも予想されはじめています。
これは関連部門や素材部門にもごく近い将来的に大きな影響を及ぼすことが予想され、自動車生産という産業構造が劇的に変化しようとする途上にあることがわかります。

CASEの進化で業界そのものが大きく変化

20世紀以降に急激に発展した自動車業界においてはメーカーは車自体を設計・製造し販売するという一連のプロセスの中で世界各国において熾烈な競争を繰り広げてきたわけですが、ガソリンや軽油で動く内燃機関を搭載した車両から電気を使った車両へのシフトが短時間で急激に進んだことと自動運転というこれまでにない利便性の導入が進むことにより自動車を製造する企業は既存の自動車メーカー以外の参入も進み始めたことから競争環境が大きく変化しつつあります。米国のTESLAがそのいい例であり、製造にかかわる知見も大きく変化してきている状況です。
とくにConnected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェア・サービス化)、Electric(電動化)という4つのキーワードをまとめて頭文字にしたCASEは非常に重要なエレメントとなっており、こうしたノウハウをもつプレーヤーはもはや既存の自動車産業には存在しない部分もある点が注目されるところです。

そのため既存自動車業界は提携や合併を進めることでなんとか業界内での生き残りを図ろうとしていますが、将来的にはIT系の企業が主力の業界になる可能性もかなり高まりを見せている状況です。

■所有から利用の社会性資産への変化
CASEの中でさらに厄介なのは成熟化した先進主要国の中で車を保有することから利用するという形態に顧客が大きく変化しようとしていることです。もともと高い金額を出して購入しても実際の利用率は3%程度で価格価値の経年変化率が高い自家用車は都市部では既に保有することよりも利用することにフォーカスする顧客が増えておりIT企業でのクラウドサービスのようにMobility as a Service(MaaS) へとシフトする動きも鮮明になってきています。こうした発想は製造と販売を基本にしてきた既存の自動車業界にはさらに親和性の低いサービスであることから、このさきサブスクリプションのようなサービスでどうやって利益を上げていくかは多くの自動車メーカーにとっての大命題になりつつあります。
トヨタではすでにこうした時代の変化に対応するために街づくりから市場に参入する実験も開始しはじめています。 とくに自動運転が普及してきた場合には、個別に利用できる最小単位の電気で動く乗り物というのが自動車の最終形になる可能性もではじめています。
このように自動車業界は製造業、販売業で支えられてきた業界として長く反映してきたわけですが、ここからはIT業界がハードの販売で勝負しないのとまったく同様にクラウド的なサブスクリプションビジネスで勝負をすることになり、業界規模も大きく変化することが予想されます。
したがってこの業界で生き抜くためにはAIをはじめとするほかの重要な知見を持っていることが重要になりそうで、最終的に市場に残るプレーヤーも大きく変化しそうな状況になってきています。