新型コロナウイルスは当初中国全土に広がりを見えたものの2003年のSARSのように地域限定型のウイルス拡散ではないかと思われていました。こうしたことも手伝ってか7月24日に開催予定だった東京オリンピックの延期問題はかなり遅れたタイミングで決定した感がありますが、このウイルスの感染が本当に収束するのかどうか良く判らないまま、とにかく1年延期して開催することが決定しています。
この東京オリンピックが1年延期された場合どこまで影響がでるのかが気になるところですが、ほかのスポーツイベントなどとのタイミングの調整などもさることながら、やはり気になるのは経済的な損失がいくら発生するかという問題が大きいものと思われます。

東京五輪の経済効果はそもそも大きく盛り過ぎ

東京都は2012年の大会招致時期には2020年の東京五輪の経済効果を3兆円と試算しており、当初はかなりその経済効果が小さいものとして扱われていました。
しかしその後レガシー効果なるはっきりしないものを持ちだして東京五輪終了後の2030年まで含めて32兆3000億円を見込むようになっています。もともとの東京五輪開催にともなう施設整備費や大会運営などの直接的効果は5兆2000億円で 事業規模7000億であればそれなりの費用対効果が見込まれる数字となっていますが、既に3兆円を超える事業規模から考えると爆発的な投資対効果のある事業とは言えない部分が大きいことがわかります。
特に付帯的なレガシー効果など本当にあるのかどうかわからない荒唐無稽の数字ですから、そもそも検討の対象にはならないものと言っても過言ではない状況で、こうしたはっきりしない効果の部分が果たして延期で棄損を受けることになるのかどうかはよくわからないというのが正直なところです。

みずほ総研が2017年当時に出したリポートによれば直接的経済効果は1.8兆円、付随効果が28.4兆円で直接的効果だけから見ると投入資金さえ回収できないかなりお寒い試算になっていることがわかります。
東京都が試算している直接的効果を話半分とみるとだいたいこのみずほの試算にかなり近づくことになりますが、とにかく3兆円以上の費用をかけると直接的経済効果では回収しきらない金額であることが改めて明確になっており、1年延期になっても回収できない部分はそのまま回収できないものとして残りそうな状況です。

最新の経済損失試算は6500億円弱

この東京五輪、確かに全面中止になればそれなりの損失がでるであろうことはほぼ誰にでも想像できるものがありますが、直近の関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によると、東京五輪・パラリンピック大会が1年延期された場合の経済損失は約6408億円程度ということで、まったく損失がないというわけにはいきませんが、足もとでの新型コロナの感染拡大による経済損失を考えれば、この試算額が正しいのであれば今となってはそれほど驚くべき金額ではないことも見えてきます。もちろん国民、都民の税金が利用されるわけですから無駄な利用は極力排除したいところですが、現状では仕方ないレベルと言わざるを得ません。
国と東京都がこの五輪の延期を決めてから、突如として感染者数が日々拡大傾向にありますが、むりやり予定通りの実施をするために検査数や感染者数を隠蔽することになるよりは、しっかり1年延期を決めたことは国民にとっても都民にとっても確実にプラスになる判断ではなかったかと思われます。

ただ、現状の感染拡大を見ますと本当に1年後このウイルス感染が収束して世界から多くのアスリート、観客が来日して期待どおりのイベントを開催できるのかどうかはまだ良く判らないものがあり、1918年に国内でも蔓延したスペイン風邪が収束までに2年かかったことを考えますと、無事に開催できるのかどうかはとにかく祈るような気持ちで見守るほかない状況になってきています。
いずれにしてもこれから大きく発展する新興国ならいざ知らず、成熟した先進国がこうしたイベントに依存するというのはいささか時代遅れの感が否めないものがあります。