デジタル時代の到来とともに、あらゆる業界においてDX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)を実践・推進することの必要性が叫ばれるようになって久しいですが、では日本においてそれが順調に進んでいるかというと、世界に比べて大きな後れをとっていると言わざるを得ません。
2021年9月には、デジタル時代におけるサービスの創出やデータ資源の利活用を始め、社会におけるDXの推進を目的としてデジタル庁が発足されましたが、そもそもこれはコロナ禍によりデジタル行政の遅れがようやく明らかになったことに端を発しており、遅きに失した感があることは否めないのです。

日本のDX化が遅れている原因には、そういった国や政府の対応の遅れの他にも諸説ありますが、優秀なIT人材の圧倒的な不足に加え、過去の常識や資産を破棄し、新しいスキームに向けて踏み切ることのできない企業の対応力の遅さ、古き良き時代にすがりつく日本人気質にもその一端があると思われます。「これまでこれでやってきたのだから大丈夫」「うちの業界はDXとは関係ない」など、未だにDXを他人事のように考える経営者やビジネスマンが少なくありません。つまりこれは、DXにおけるそもそもの意義やその必要性を正しく理解していない人や企業が多いということなのです。

今、世の中で何が起こっているのか

IoT(Internet Of Things)、AI(人工知能)、ビッグデータ、ブロックチェーン・・・などなど。近年、これまでそれほど馴染みのなかった言葉が当たり前のように飛び交い、日常生活においても多く耳にするようになりました。電車に乗ればほとんどの人がスマートフォンの画面に集中し、世界中の情報を手軽に入手したり、店舗に行かずに買い物を楽しんだり、見逃したドラマを動画で視聴したりしています。SNSの普及により、芸能人や著名人でなくとも、誰もが世界中に向けて情報を発信することができるようにもなりました。企業においても、新しいビジネスやサービスのスピーディな展開が極めて容易になり、そしてそれがユーザー間で瞬く間に共有される時代です。

また、リモート会議や遠隔医療など、物理的(リアル)な世界における体験が、仮想空間における体験に置き換えられていき、単に便利になっただけでなく、人と人とのコミュニケーションを大きく変えることになりました。ひいては、これまでの人間の生き方や在り方までもが覆されているような状況です。かなり以前より仮想空間を活用した試みやサービスは多くありましたが、ここ数年でメタバースという概念が広がったことにより、それが一層加速した感があります。

これらは昨今の社会変化におけるほんの一部でしかないですが、こういった世の中の変革を踏まえ、ビジネスにおける顧客とのコミュニケーションやマーケティング手法、ひいてはビジネススキーム自体をも大きく変える必要があります。そしてそれは、業種・業界に関係なく、すべての企業や組織に当てはまることなのです。DX化はそのような状況における、生き残るために必須の取り組みと言えます。

そもそもDXとは何か

DXを提唱したとされるスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によれば、DXとは「情報技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という仮説を示しています。この曖昧で抽象的な概念が先走ってしまったことにより、未だに多くの意味合いで用いられることが多いようですが、単に業務の効率化を目指してITを活用した自動化や省力化を推し進める「IT化」とは、明確に違うということをまず意識する必要があります。
経済産業省が2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」(現在は「デジタルガバナンス・コード2.0」に統合)においても、DXとは「データとデジタル技術を活用して、(中略)業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」となっています。

つまり、データとデジタル技術の活用(=IT化)はあくまで手段にすぎず、その目的は「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」なのです。
さらっと書いてありますが、これは相当にスケールの大きな話であり、ともすれば組織そのもの、企業そのものを一旦破棄して作り直すくらいの覚悟が必要です。逆に言えば、日々変化が進み激しさを増すビジネスの世界において、それくらいの覚悟をもってDXを推進しないと、競争上の優位性は確立できないということでもあります。少なくとも、単なるIT化より一歩も二歩も踏み込んだところに本来の目的があるのが真のDXであるということは、十分に理解しておくべきでしょう。