優れたモノが売れるとは限らないからマーケティングは面白い
(競合の商品・サービスよりも)性能や機能が優れているから放っておいても売れるはずだ、という期待が空しい幻想に終わることが多いというのは、コンサルタントはもちろん、マーケティングに少しでも通じている人なら誰もが認識している現実です。ただこれはもちろん、性能や機能を磨き上げる努力を怠っていいということではなく、それらが成果を上げる(売れる)ための十分条件に過ぎないということです。
ビジネスの歴史を振り返ってみると、こういった例は枚挙に暇がありません。少し古い話になりますが、業界を揺るがした大きな例として、SONYの「ベータマックス」と他メーカー連合の「VHS」による家庭用ビデオ規格争い(1970-1980年代)、アップルの「Macintosh」(マッキントッシュ)とマイクロソフトの「Windows」(ウィンドウズ)によるパソコンの主導権争い(1980-1990年代)、などがあります。
結果、ビデオではVHS、パソコンではWindowsが勝者となり、その後のマーケットを席巻しました。ところが、そのどちらの争いにおいても、性能や機能については敗者のほうが優れていたとされています。
現在、VHSビデオはDVDやブルーレイなどに取って代わられましたが、Windowsは堅調に一定数のユーザーを維持しています。一方で、敗れたアップル社はその後、解任されていたスティーブ・ジョブズを再びトップに迎え入れ、iPhoneやiPadなどの革新的な商品を次々と発表しました。それらが爆発的にヒットしたことで、世界有数の大企業に成長したのはご存じの通りです。低迷していたMacintoshも大きな存在感を示しています(現在は「Mac」(マック)が正式名称)。ジョブズの不在により、Windowsと争っていた際には発揮することができなかった先見性とマーケティング能力が、ジョブズの復帰によって大いに発揮された結果と言えます。
同調心理を刺激する
冒頭にあげた厳しい現実をもっと分かりやすい例で言えば、ルックスや演技力の優れた俳優や女優が必ずしも売れるとは限らないということです。ルックスなどは主観も大きい要素であり評価は人それぞれですので、ここで同列に並べて言及するのは少々乱暴かもしれませんが、とはいえ芸能界は、マーケティングや売り出し方による成否の差が最も激しい世界かもしれません。
いずれにせよ、マーケティングの基本として、いかに競合相手との差別化を図るかということが大事なのはもちろんですが、それをどうやって世間に知らしめるかというところに大きなポイントがあります。その上で、この流れに乗っておかないと損をするという不安をあおるのです。特に、調和やバランスを重んじ、他の人間と協調する文化を大切にする日本人にとって、みんなが手に入れているものを自分も手に入れたい、勝ち馬に乗りたい、といった同調心理を刺激するのは、非常に効果があります。
バンドワゴンに乗る人々問題
前述した例のうち、Windowsについて考えてみれば、マイクロソフトの勝利の立役者となった「Windows95」というOS(オペレーティングシステム)は、日本でもフィーバーと言えるほど大きな話題となりました。そのマーケティング戦略の成功要因は、この流れに乗り遅れてもいいんですか、とばかりに国民の不安をあおりにあおったところにあります。
経済学や社会学などでよく使われる言葉として「バンドワゴン効果」というものがあり、時代の流れに乗っているモノ、多くの人が支持しているモノに、さらに支持が集まりやすくなる現象を意味します。「バンドワゴンに乗る」というのは「多勢に加わる」「勝ち馬に乗る」といった意味ですが、この時の日本はまさに、バンドワゴンに乗った人々で溢れかえったのです。
ソフト販売店に長蛇の列を作るパソコンフリークたちをニュースなどで目にすることで、一般の人々までもが「これを買っておかないと乗り遅れてしまうのでは」と不安をあおられる。結果、パソコンOSとしては空前の大ヒットとなり、ひいてはWindowsパソコンがMacintosh陣営を打ち負かす立役者となる。これはひとえに、マイクロソフトが打ち出したマーケティング戦略の賜物なのです。
こうして過去を振り返ってみることで、マーケティングで成果を上げるための多くの教訓が含まれていることに気付くことができます。同じような話は現在でもそこここで起こっているばかりか、バンドワゴン効果などは、火がつくと一気に話題となりユーザー数が急増するSNSの例をあげるまでもなく、ネットによる口コミが盛んな現在のほうが顕著になっていると言えるでしょう。そして、iPhoneとAndroidのスマートフォンにおけるシェア争いなど、歴史は繰り返され、興味は尽きることがありません。だからマーケティングは面白いのです。
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