とことん内製化にこだわり、システムやソフトウェアの開発をすべて自社で行っている企業も一定数存在しますが、社内にエンジニアや開発環境などのリソースやノウハウを持っていない企業は、それらをアウトソース(外注先に依頼)することが一般的です。
逆に、自社ブランドで販売・管理する商品やサービスを持っていない開発ベンダーやソフトウェアハウスなどは、クライアント(依頼元企業)からそうやってアウトソースされた仕事に、ビジネスのほぼすべてを依存することになります。
その場合、SES(System Engineering Service、システムエンジニアリングサービス)と受託開発という大きく分けて2つの依頼形態があることは、特にITビジネスに携わる方ならよくご存じかと思います。

そしてその2つの依頼形態の狭間では、実際に現場で働くエンジニアの微妙に揺れ動く心理というものを垣間見ることができるのですが、こちらはあまり知られていないかもしれません。

揺れるエンジニアの心理

そもそもSESと受託開発はどう違うのでしょうか。SESは客先常駐、すなわち基本的にはエンジニアがクライアントのオフィスに常駐する形で業務を遂行することがほとんどです。厳密には違いますが見た目としては人材派遣に近い業態で、短ければ数ヶ月程度のスパンでクライアントを転々とすることもあります。パソコンなどの使用機器に関しては、クライアントから支給される場合もあれば、自社から持ち込む必要がある場合もあります。
対して受託開発は、自社に開発プロジェクトを構え、基本的には自社オフィス内で業務を遂行する形になります。当然、使用機器もすべて自社で用意する必要があります。ただ、ファームウェアなど特定のデバイスに搭載したりそれを制御したりするシステムやソフトウェアを開発する場合は、当該デバイスをクライアントから貸与されるケースが多いようです。

その他、エンジニアの勤務時間に対して報酬が発生するSESに対し、あくまで成果物の納品が報酬対象となる受託開発など、細かな違いはたくさんありますが、そこで働くエンジニアにとっては、とにかく就業場所が違うということが一番の大きなポイントになるのです。
SESのほうが色々な職場を経験できるからいいと考えるエンジニアもいれば、自社で腰を据えてしっかりと開発できる受託開発がしたいというエンジニアもいます。考え方が人それぞれなのは当然なのですが、人間というのは勝手なもので、同じ状況が長く続くと、気持ちが変わって別の環境を求めるようになったりします。
SES経験が長いエンジニアは、自分が社員として所属している会社はどこなのか、意識することなく毎日を過ごすことが日常になります。そうするとふとしたきっかけで、自社に戻って仕事がしたい、自社にある自分の席で落ち着いて開発がしたい、と思うことがあります。

一方、受託開発が長くなると、違う環境に身を置きたい、SESでもう少し気楽に開発がしたい、といった気持ちが湧き上がってくることがあります。
自社に戻りたいという自分の希望を通してもらい、SESから転じて受託開発に就いたものの、数年後には再びSESを希望して客先に常駐している、といったエンジニアも少なくありません。その逆もしかりです。また、自社でその希望が叶わないことを理由に、転職を決意するエンジニアもたくさんいます。
もちろん、それも人それぞれであり、どれだけ同じ環境で仕事を続けても、気持ちが変わらない人もいます。それでも、長く同じ環境に身を置くことで飽きてしまったり、別の刺激を求めたくなったりして気持ちが揺れ動くのは、人間であれば自然なことであると言えるでしょう。

ただこれも、特に近年のコロナ禍で在宅勤務やリモートワークといった新しい働き方が浸透することにより、少しずつ様変わりしているようです。とはいえ、ここへ来て一部では逆に、在宅勤務縮小の動きも見られますから、こういった社会情勢がエンジニアの心理にどう影響するかも含め、今後も注目していきたいところです。

大切なのは帰属意識とエンゲージメント

ちなみに、SESのみを専門に行う企業は数多くあります。将来的に受託開発を行うことを見据えながら、設立当初はまずSESから始めるといったプロセスを踏むところも多いようです。言い換えれば、SESは参入障壁が低いため競争が激しく、差別化も難しいということです。そのため、営業に苦労している企業は多く、多数のエンジニアをアイドル状態(受け入れてくれるクライアントが見つからず、自社もしくは自宅にて待機させている状態)のまま抱えているところもあります。エンジニアが正社員であれば、その状態でも人件費は発生しますから、それが長く続けば事業の存続すら危うくなるほどの痛手となりかねません。

ただ、エンジニアからすれば問題はそこよりも、その状態に陥ることを一番に危惧する所属企業が、クライアントを見つけることを優先するあまり、自らの希望や将来のキャリアを積極的に考えてくれないというところにあります。そしてその傾向は、余裕のない企業であればあるほど顕著なのです。

いずれにせよ、SESか受託開発かに関わらず、結局はどれだけ優秀なエンジニアを手元に確保できるか、というところに成否のポイントがあります。その上で、労使双方がWin-Winを実現するために大切なのは、企業側がエンジニアの微妙な心理やそのキャリアを真剣に考えることで帰属意識を高め、エンゲージメントをしっかりと醸成すること、これに尽きるのではないでしょうか。